世界中で様々な賞を受賞した映画『女王陛下のお気に入り』から5年、ヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンのタッグが再び叶いました。
本作も、ヴェネツィア国際映画祭で最高賞となる金獅子賞を授賞しただけでなく、またしても世界中の映画賞にノミネートされています。
そんな期待大の映画『哀れなるものたち』を深掘りしてまいります。
この記事には『哀れなるものたち』のネタバレを含みます!未見の方はご注意ください!
映画「哀れなるものたち」の作品情報
公開日 | 2024/1/26(日本) |
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監督 | ヨルゴス・ランティモス |
原作 | アラスター・グレイ |
脚本 | トニー・マクナマラ |
キャスト | エマ・ストーン ほか |
音楽 | イェルスキン・フェンドリックス |
上映時間 | 2時間21分 |
配給 | ウォルト・ディズニー・ジャパン |
上映劇場 | 哀れなるものたち 劇場情報 |
年齢制限 | R18+ |
映画「哀れなるものたち」キャスト
役名 | キャスト | 役柄 |
ベラ・バクスター / ヴィクトリア・ブレシントン | エマ・ストーン | 主人公。見た目は大人の女性だが中身は子ども |
ダンカン・ウェダバーン | マーク・ラファロ | 弁護士。女たらし |
ゴッド | ウィレム・デフォー | 人体実験をおこなっている |
マックス・マッキャンドルス | ラミー・ユセフ | 大学生。ゴッドの助手をつとめる |
アルフィー・ブレシントン | クリストファー・アボット | 将軍。ベラの過去を知っている |
ハリー・アストレー | ジェロッド・カーマイケル | ベラが船上で出会う男 |
フェリシティ | マーガレット・クアリー | ベラとは別の被実験体 |
トワネット | スージー・ベンバ | ベラと出会う売春婦 |
映画「哀れなるものたち」あらすじ
美しい女性ベラ・バクスター(エマ・ストーン)は、天才博士ゴッド(ウィレム・デフォー)と、使用人の女性と立派なお屋敷で暮らしています。
ベラには知的障害があり、知能が小さな子どもほどしかありませんでした。
大人の女性の肉体を持ちながら、ベラはたどたどしく歩き、おぼろげな発語をし、天真爛漫に振る舞います。
ベラの知能には実は大きな秘密があり、それによってベラの知能は日々、驚きのスピードで進歩していくのです。
成長し続けるベラは、屋敷の外の世界を見てみたくなり……。
映画「哀れなるものたち」はR18指定作品で年齢制限あり
R18+(18歳以上の方がご覧になれます)という厳しい年齢制限がある映画『哀れなるものたち』。
制限がありながら、話題の作品ということで異例の大規模上映がなされておりますが、ベラを取り巻く環境や、ベラのとる行動の多くが刺激的なのでR指定はしっかりと守りましょう。
成人になってから!
過激な性描写、暴力描写だけでなくグロテスクなシーンも多いです。
映画「哀れなるものたち」ネタバレ
映画「哀れなるものたち」のネタバレをご紹介します。
※クリックすると、見出しへリンクします。
胎児の脳を移植されるベラ
ベラの知能の秘密、その鍵をにぎるのはゴッドでした。
実は、ベラが身投げをする際に身ごもっていた胎児の脳みそが、ゴッドの手によってベラに移植されていたのです。
自らも身体中に傷を抱えたゴッドは、幼いころから父親に人体実験の道具とされていました。
異常な環境で育ったゴッドは人としての倫理観を失い、父親と同じように数々の人体実験を行っています。
身も心もズタズタのゴッド…可哀想ではあります
ゴッドの所業を知る由もなく、ベラはまるで恋人を愛でるようにゴッドを慕っているのです。
冒険の旅に出るベラとダンカン
ゴッドとベラ、そして使用人とのミニマムな暮らしは、ダンカン(マーク・ラファロ)という男の登場でいとも簡単に終わってしまいます。
幽閉されるベラを不憫に思ったダンカンは、一目惚れついでにベラを屋敷の外へと誘います。
ベラも、知能が成長するにつれ屋敷を窮屈に感じ始めていました。
ワイルドなダンカンに魅力を感じたベラは皆の反対を押し切って、ダンカンと2人、世界旅行へと飛び出していきます。
グロ注意!なシーン
ゴッドの人体実験は、メスを使って至極リアルに行われます。
さらには、善悪の概念を持つ以前のベラがニコニコと死体を切るシーンもあったり、ヨルゴス作品らしさが全開です。
『籠の中の乙女』や『ロブスター』などで描かれる、人間の内面に対する気色の悪さは本作においては弱めでした。
魅力あふれるベラの美しさと、ゴッドが損壊する死体との視覚的な対比がグロテスクなのがR18作品ならではの注意点であり、本作を傑作たらしめる理由でもあります。
「哀れなるもの」とは何だったのか
ベラを取り囲む人間の多くは、ベラに「条件付き」の愛を自分勝手にぶつけていました。
子どものようにはしゃぎまわる、何も知らないベラだからこそ守ってやりたい、というような「俺がいなきゃ何もできないんだから」という優越感の醜さを描いていたように思います。
そして、ベラという特殊な人物相手にわかりやすく描かれる周囲の優越感は、私たちの実世界にもひっそり存在していると感じました。
無意識に他人をジャッジして見下していること、誰にもあるのではないでしょうか。
その一方で、無知なフリや無力なフリをすることが世渡りの手段である場面もあるわけで、そう振る舞うことが最適解だったりすることもあると思います。
善人と悪人、正解と不正解というようにきっちり白と黒には分けられない、グレーな私たち人類が皆「哀れなるもの」なのだと再認識できた教養映画でした。
映画「哀れなるものたち」の原作は小説
原題を『POOR THINGS』という本作は、アラスター・グレイという作家が書いた小説を原作としてつくられた映画です。
ウィットブレッド賞(現・コスタ賞)とガーディアン賞をW授賞した原作小説は、1992年に発行されました。
アラスターは、ほとんどの著作を自身で装画・挿絵・デザインしていることで有名で、アラスター自身が描いた原作の表紙は、人骨や脳のモチーフが映画版に通づる奇妙さを帯びています。
アラスターは25年をかけて執筆した『ラナーク』という小説でデビューを果たしました。
長編小説のほかに、短編や詩集、ノンフィクション小説や戯曲にいたるまで幅広い作風の作家です。
第96回アカデミー賞11部門ノミネート
映画『哀れなるものたち』からは、第96回アカデミー賞にてヨルゴス・ランティモスが監督賞に、エマ・ストーンが主演女優賞に、マーク・ラファロが助演男優賞にノミネートされています。
そのほかに、製作を務めたエド・ギニーとアンドリュー・ロウが作品賞に、脚本を書いたトニー・マクナマラが脚色賞に、撮影のロビー・ライアンが撮影賞にノミネートされています。
加えて作曲賞、編集賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、美術賞と11部門にノミネートされているとのことで、日本時間の3月11日に開催される授賞式が楽しみです。
才能が結集!
アカデミー賞のほかにも、第81回ゴールデングローブ賞にて作品賞と主演女優賞を、第80回ヴェネツィア国際映画祭にて最高賞である金獅子賞を授賞したりと、世界中の映画祭を沸かせている本作の躍進はとどまる所を知りません。
まとめ:映画「哀れなるものたち」はグロいけど見る価値あり!
たしかにグロいです。
「イテテッ」と目をそむけたくなる描写も無きにしもあらずですが、ヨルゴス監督の意図は、その残酷描写の奥、さらに凄惨な“世界の成り立ち”のなかにこそあると感じました。
表面の過激さに囚われずに、ベラの世界旅行に同行しながら、あなたも“哀れなる自分”に会いに行ってみてはいかがでしょうか。