「人間が恐れ慄いてばかりのホラー映画にはもう飽きた!」
原作・押切蓮介先生の叫びを巨匠・白石晃士監督がキャッチした先にある新世界。
笑えて泣けて、しっかり怖くて、元気はつらつになれる映画「サユリ」についてあらすじやキャスト、ババア無双の部分についてご紹介します。
この記事には映画の結末や重要なネタバレを含む可能性があります。未鑑賞の方はご注意ください。
公開日 | 2024/8/23 |
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監督 | 白石晃士 |
原作 | 押切蓮介 |
脚本 | 安里麻里 白石晃士 |
キャスト | 南出凌嘉 近藤華 根岸季衣 ほか |
音楽 | 石塚徹 鈴木俊介 田井千里 |
上映時間 | 1時間48分 |
配給 | ショウゲート |
公式サイト | 「サユリ」公式サイト |
上映劇場 | 「サユリ」上映劇場 |
映画「サユリ」あらすじを結末・ラストまで解説
起:新居
中学生の神木則雄(南出凌嘉)は、新居へと越してきます。
父・昭雄(梶原善)のかねてからの夢だった一軒家への転居は、父方の祖父母との同居のはじまりでもありました。
認知症を患っている祖母・春枝(根岸季衣)とのふたり暮らしが華やかになり、祖父・章造(きたろう)も喜んでいます。
愛情深い父母に恵まれ、健康的な環境で育った則雄。
則雄と同じように愛情を受けて育った姉・径子(森田想)と弟・俊(猪俣怜生)も、幼さをのこしながらも自立しつつありました。
神木家の順調さこそが物語の礎
父・昭雄は、食卓を囲む家族をぐるり見渡し、あらためて人生最高潮の幸福を噛み締めます。
「楽しい家にするからな」と家族の前で意気込む昭雄の肩は、すこしだけ力んでいるように見えました。
承:死にゆく家族
そんな幸福の絶頂で父は、息を引き取ってしまいます。
これから新居での生活が始まるというときに、「あいつは間(ま)が悪いよなぁ」と笑い飛ばす祖父・章造。
神木家の“生命力”は死を超える強さ。家族の死は悲しいけれど、私たち観客の前では明るい神木家
学校でも気丈に振る舞う則雄を、同級生の住田(近藤華)は心配していました。
霊感のある住田には、則雄にまとわりつく少女の霊が視えていたのです。
住む家に原因があると考えた住田は「いますぐにでもその家を出るべき」と説得しますが、則雄はのらりくらり。
そんな矢先、ひと晩のうちに弟・俊と姉・径子、そして母・正子(占部房子)が死んでしまうのです。
転:祖母の目覚め
戦慄の夜が空けると、震える則雄の前に豹変した祖母・春枝が現れます。
ぼけていたはずの春枝は、かつて孫たちに“鬼”と恐れられた姿を取り戻していました。
「すっかり目が覚めてしもうたわい!」
怒りを糧にみるみる若返る春枝は、家族を殺された悲しみに打ち震え則雄を叱咤します。
じつは春枝には、この家に巣食う“霊”が視えていました。
家族の死が、そのものによってもたらされていると確信した春枝は、則雄とともに、“生命力”によって霊を破壊することに。
食って、寝て、体を鍛え、外気にふれ陽の光を浴び、健康体を作りあげていく春枝と則雄。
正しい健康への道、勉強になります
春枝は繰り返し「霊など泡のように儚いもの、生命に勝るものはなし」と則雄を鼓舞し、ふたりは霊への復讐を胸にトレーニングを重ねます。
ある日、亡き夫・章造が春枝の夢枕に立ちました。
春枝が章造のお告げ通り庭を掘りかえすと、女性物のカバンなどとともに頭蓋骨が出てきたのです。
「メインディッシュの登場だねぇ」
頭蓋骨の主の名は“サユリ”といい、サユリこそが神木家の者たちを殺めた霊の正体でした。
結:サユリ
春枝は、サユリとともに埋められていた持ち物から、以前この家に住んでいた一家を突き止めます。
サユリは家族によって殺され、庭に埋められたと推測する春枝。
いよいよ沸騰せんばかりに怒る春枝はサユリを殺した“九城家”の残党を探しだし、暴行ののち拉致し、忌まわしき家へと運びます。
そのころ家では、春枝の不在を餌にサユリが則雄に迫り狂っていました。
則雄の危機を察知し駆けつけた住田がサユリに異世界へと連れ去られたころ、春枝が九城家の面々を連れて戻ってきます。
やはり春枝の読み通り、九城家の人間たちはサユリを殺し庭に埋めていました。
サユリの怨恨の種子が家族にあると考えた春枝は、人質であるサユリの父・夏彦と母・美里、そして妹・香奈を、トンカチやキリ、バールなど様々な武器で殴りつけます。
春枝の思惑通り、痛めつけられる家族のもとへ姿を現したサユリは九城家の秘密を暴露するのです。
サユリの口からは、おぞましい虐待と無関心がかたられますが、春枝は同情するでもなく「さぁ、こいつらを好きにしろ」とサユリの前に父母と妹を転がします。
怨念を爆裂させながら、家族に復讐するサユリ。
対する春枝と則雄はとことん生者です。
「住田がすきだ!住田とやりたい!」という純真を胸に、ときにそう叫びながら、則雄はサユリの頭蓋骨にかぶりつきます。
「そろそろ夜食の時間だなァッ!」
則雄の性欲はサユリを弱らせ、無事に住田を現世に取り戻すことができました。
すると、サユリの背後に死んだ神木家の面々が現れます。
「じいちゃん、あとは頼んだ」という春枝の声に呼応するように、春枝と則雄以外の神木家の面々はサユリの肩を抱き異世界へと消えていきました。
…時は経ち、冷静になれば家族を失った悲しみが押し寄せる則雄。
でも則雄の側には春枝、そして住田が笑って生きています。
「今夜は鍋にしよう」と、則雄は前を向き生きていくのでした。
映画「サユリ」結末ネタバレ解説!ババア無双が最高
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「サユリ」ラスト・結末のネタバレ解説
自らの憎き父・夏彦、そして妹・香奈を殺してもなお晴れることのない恨みは、サユリを幼いころの姿に戻します。
可憐なサユリは愛をもとめて泣きじゃくるのです。
サユリの攻撃を受けたものの、ギリギリ生かされたサユリの母・美里は、サユリに近寄り「ごめん、ごめん」とひたすらに謝りました。
消えることのない傷ながら、とりあえずやりたいことはやりきったサユリの元へ、神木家の逝去組が“お迎え”にきます。
「則雄と春枝を守るため」という側面もあるでしょうが、やさしい神木家ですから、自分をとり殺したサユリの魂にも同情したように感じました
サユリに勝ったとたん、春枝は認知症である元の姿に戻ります。
美里の虚偽証言により無罪放免となった則雄と春枝。
手放した家は、早々に取り壊されました。
戻った日常のおだやかさは、ときおり家族の不在を際立たせ、則雄の心を弱くします。
寂しくて泣いてしまいそうになる則雄に、春枝は「ばあちゃんがついてる」とつぶやくのです。
目の前の春枝は、紛うことなき“ババア”なのである
そして、傍らには愛しの住田。
則雄は、死んだ家族をあわせた6人ぶんの人生を生きるため、今日もメシを食って眠るのでした。
衝撃!サユリの正体と秘密をネタバレ
映画冒頭から登場する、でっぷりと太って顔に吹き出物をたたえたサユリ。
そんなサユリに、母・美里は怯えていました。
美里がサユリを恐れるのは、己の罪悪感のせいです。
サユリは幼いころ、髪の先までキラキラな美少女でした。
美しいサユリに発情した父・夏彦は、幼いサユリを抱いていたのです。
夫の虐待を知りながら見てみぬふりにとどまらず、我が子のサユリを責めるような気持ちを抱いた美里。
守ってくれる大人がいない“家という地獄”で、サユリは自分を守るため、自分の美しさを呪います。
髪をザクザクに切り、菓子をむさぼり食い、部屋にこもり不潔をきわめるサユリ。
巨大になったサユリに、美里は「昔に戻りたい」と声をかけます。
とんちんかんな美里の言葉に怒りが限界突破したサユリは、バールを手に襲いかかりました。
すると、あろうことか不幸の元凶である夏彦主導のもと、サユリは家族全員に返り討ちにあい死んでしまったのです。
サユリは、家族の手で庭に埋められ、地獄の家に縛りつけられてしまった怨霊なのでした。
サユリのバックボーンは映画オリジナル!原作については後述します
ババアが無双!おばあちゃんは最後どうなった?
認知症だった春枝ですが、愛する夫と息子夫婦、そして孫たちを亡くしたことで覚醒します。
「すっかり目が覚めてしもうたわい!」
なぜかはわかりません。
しかし、ババアの目覚めに理由など必要ないのです。
言語化するならば、この物語の核はババア無双であり、はやる気持ちを抑えてババアの怒りを丁寧に積みあげてきた前半部分のすべてが“理由”でしょう。
しかし、春枝の変貌と、ともに開眼する則雄の理由を探るような見方は、やはりナンセンスです。
サユリとの対決を終え、「元のばあちゃんに戻った」シーンの後も、ババアの片鱗は春枝とともにあります。
ぼけたばあちゃんも、クソババアも春枝に変わりありません。
映画「サユリ」生き残りと死亡キャラ一覧
生き残りキャラは4名
- 神木春枝
- 神木則雄
- 住田奈緒
- 九城美里
・神木春枝…生命力にあふれ、死の予感すら感じさせません。
・神木則雄…春枝、そして家族全員のバックアップのもと健やかに生きています。
・住田奈緒…則雄の性欲によって地獄のふちからカムバック!
・九城美里…サユリの温情で現世にとどまりました。
死亡キャラは7名
- 神木昭雄
- 神木章造
- 神木径子
- 神木正子
- 神木俊
- 九城夏彦
- 九城香奈
上記の全員がサユリによって殺害されました。
映画「サユリ」原作は押切蓮介先生の漫画
押切蓮介先生による原作漫画「サユリ 完全版」は、もともと2部構成だった「サユリ」に対決シーンを加え、押切先生みずから1冊に完結させたものです。
ババア無双の第2部を魅せたいのに1部で離脱する読者が少なからずいたことに衝撃を受けた先生が、“完全版”をつくってくれました。
春枝の名言に鼓舞されながら、漫画ならではの霊描写に驚かされる傑作です。
映画では、人間が霊を演じることで生じる恐怖がありました。
原作ファンであり、白石晃士作品のファンでもある筆者、漫画と映画それぞれの良さが発揮された両作品に感動しました
サユリの家族についても漫画と映画では描かれ方がちがいますが、映画版はより“理由”を求める観客にコミットした感があります。
押切先生が生み出したサユリを、白石組が掬いあげ、先生とともに見届ける構図がエモかったです。
映画「サユリ印象に残ったキャスト3選(ネタバレあり)
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①神木春枝役/根岸季衣
立役者として、ババアの3次元化を完璧にやり遂げた根岸季衣さんに敬意をこめて。
バズを生む可能性を秘めた“ババアの目覚め”という本作の“メインディッシュ”は、前半に描かれる丁寧な地縛霊的ホラーによって、げっそり腹ペコになった観客に提供されました。
名言の数々に爆笑
老人がつよい系ホラーの傑作、フェデ・アルバレス監督「ドント・ブリーズ」が頭をよぎるババア無双にワクワク!
あちらは人間同士の戦いですが、こちらも怨霊とはいえ、もはや人間同士の戦いだった気がします。
ふだんは貞子や伽椰子など、ホラー映画の座長は霊であることが多いです。
本作は霊の名前がタイトルでありながら、主役は“生命の濃い”ババアでした!
②神木則雄役/南出凌嘉
春枝とふたり現世に取り残された則雄。
もうひとりの主人公として春枝の意志を継ぎ、“生きる希望”そのものとして存在感を放った則雄が印象的でした。
ソフトな身のこなしで、やさしすぎる兄・従順な弟・聞き分けのいい息子をやりくりし、祖母との師弟関係に従事するTHE・フレキシブル。
ほんとうにバランスのとれた“良い家族”を体現した径子、俊とともに、神木家3姉弟が本作のリアリティを担保していたように思います。
サユリにババアにとパンチの効いた画面に、一縷のやすらぎをくれた正義のプリティフェイスに感謝です
③九城夏彦役/池田良
キショいだけのサイコ悪役に徹した、サユリの父・夏彦役の池田良さんが強烈に印象に残りました。
夏彦による性的虐待は映画独自の設定でありながら、サユリへの同情を誘うバックボーンとして超優秀!
「かわいそうだけど、それとこれとは別の話」というババアによる線引きも新しかったです。
我が子の髪をなでているだけなのに、娘の手を引いているだけなのに、なぜあんなにも気色悪いのか。
犯される娘を見ていながら「はっ」とか言って顔面蒼白で後ずさる美里もキショかったですが、サユリの家族がまとうグロさの総本山は夏彦にあり、と感じました。
個人的に、池田さんの“受け芝居”が好きなのもあり、見事ケツの穴で受けとめたサユリの憤怒とか最高すぎて拍手したかったです。
映画「サユリ」印象に残ったシーン・場面3選(ネタバレあり)
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①完全2部構成
観客が、リアリティ度外視のババア無双を受け入れるため用意された、ベタで丁寧な前半ホラーパート。
人物紹介もそこそこにバタバタ死んでいく神木家メンバーの、あっけない死にざまがしっかり怖くてすごかったです。
おぞましい死に顔をさらす家族を目前に、感情コントロールも間にあわない則雄が、観客の気持ちとリンクし不条理が頂点に達したとき、ババアが目を覚ます。
前述のとおり原作者の押切先生は、読者に前半部分での離脱者がいることを嘆いてました
ババアの覚醒とともに、「もう理由とかどうだっていい」という事象がたくさん起こるのは爽快!
整合性とか、感情の問題とかどうだっていいから「このバカみたいに面白い展開をもっとくれ、くれよ、なあ」という感じで久々に映画の奴隷になれた気がして気持ちよかったです。
ババア覚醒のアイデアを生んでくれた押切先生、映画に落としこんでくれた白石監督、ありがとうございます。
②頭蓋骨
映画オリジナルである頭蓋骨のくだりに爆笑しました。
まさかババアの「メインディッシュ」発言がフリだったとは気づかなかった
頭蓋骨を口いっぱいほうばる則雄に、あのときばかりはサユリの気持ちになって「え…怖いんですけど」となったものです。
春枝と則雄は太極拳をはじめとし“気”の強さに重きを置いていて、それを“生命力”ととらえていました。
頭蓋骨を喰うのには目の前で家族をいたぶるのと同様に、サユリのメンタルを削る目的があったのでしょう。
かと思えば様々な武器でのシンプル暴力もたくさん見れて楽しかったです。
ババアが武器並べてるときワクワクしたなぁ
③芝居力
キャスト全員の芝居のトーンがそろっていて心地良かったです!
達者な俳優陣が楽しそうに演じている姿に、現場の健康的な空気を感じてうれしくなりました。
ベテラン勢はもちろん、物語の核となる若者チームの、肩の力が抜けた良芝居も素晴らしかったです。
父・昭雄の「ちゃんと楽しい家にするからな」という台詞にはウルッとした
あとは個人的に、住田役・近藤華さんの芝居が好きでした。
感動のエンディングの最中に住田が発した「え、食べたーいやったー」というフニャフニャの台詞が最高に好きです。
映画「サユリ」編集部で実際に鑑賞した感想と評価(ネタバレあり)
ストーリー展開
わかりやすいはずないのに、なんかいろんなものを通り越してめっちゃわかりやすい!
頭であれこれ考えていると置いていかれますし、そんな見方は無粋かもしれません。
コンスタントに発される開眼ババアによる説明名言が、物語の進行を促すので身をゆだねましょう。
そのどれもが、人生訓になり得る滋味深いものなのもありがたいです。
「そろそろメシが血肉になってきたころじゃわい!」…滋味深いですね
結末への評価
なんかもうすごく超とても最高でした!
則雄にサユリが気圧されて、口からヴェノムみたいなニョロニョロを出すのも最高。
少女の姿に戻る、という普遍的な表出も最高。
「人間が勝って終わる」という生命力アゲなメインテーマも一貫していて最高。
そして、個人の恨みにどんな理由があろうと、当事者以外にはなんの関係もないというシンプル正論が心地よかったです。
八つ当たりするくらいなら親を◯りましょう
ババアの無双度
単純な「ババア無双ひゃっほー」にとどまらない魅力がありました。
先ほどひきあいに出した「ドント・ブリーズ」のジジイでさえ、弱い部分はあったもの。
両者、人間味もちゃんとある素敵キャラ
年齢のわりに元気はつらつでしたが、則雄のアシストあってこそのババアでした。
生身の人間として霊と戦うことがババアの信念ですから、リスクもあります。
無双といえど、おばあちゃんなので、則雄のケアが必須でしょう。
個人的には、「いそうでいなさそう」な絶妙ラインのババアがしっくりきて良かったです。
再鑑賞
元気はつらつ!お〇んこ〇ん〇ん!何回もみたーい!
まとめ:映画「サユリ」はババア無双が最高なホラー映画
ホラー好きの間で超話題の本作、世界中にひろがって大バズりしてほしい!
豪快なババアを面白がりながらも、則雄の成長を見守る繊細なおもむきを感じる傑作でした。
白石監督の最新企画「彼岸の家」もたのしみです!